2013年全理連業界振興論文 優秀賞
「地域医療ネットワークの確立」がもたらす期待と今後の課題
宇都宮まどか(日技会 福岡本部)
madokarabo@yahoo.co.jp
【序論】
景気の低迷が長く続き、将来に不安を憶えるのは理容師に限ったことではありません。生き残るため、多種多様なサービスを取り込もうとする現代社会の変化により理容師も仕事の領域を侵されようとしています。例えば街中のドラッグストアー内でお顔剃りを行う店舗の出現など、今までライバルではなかった業種までもが理容の存在に危機感を与えるようになりました。現状のまま、不景気の打開策もなく、私たちは淘汰されていくのでしょうか。組合員の超高齢化、後継者不足、理容組合加盟店の減少など他にも課題は山積みです。この論文は理容業界が抱える問題について毛髪診断士の視点から地域医療ネットワークの確立により今まで消極的であった医療分野への進出と新しい営業支援の柱を提案するものである。
【本文】
近年、テレビやインターネット等のマスコミで毛髪ケア、素肌ケアが注目されています。
これは理容業界のみならず毛髪ケア、素肌ケアが社会的な市場で需要や重要性が高まりつつあることが示されている例の一つであります。毛髪ケアに関して理容業界が抱える問題といえば、添付資料①にあるように、頭皮や毛髪に何らかの悩みを抱えるお客様が毛髪ケアや素肌ケアの情報や商品を探す際、理容師を頼りにせず、スーパーや雑貨店などでケア用品を購入していることです。深刻なトラブルがある場合には自分で病院を探して自主的に治療をしていますが理容サロンはそのネットワークに加わっていません。病院での、治療なども当然必要ですが、日常的なケアが重要です。この日常的なケアについてお客様にアドバイス等出来れば、低料金店や美容室へのお客様の流出を防ぐひとつの方策になるのではないでしょうか。しかし、現状の、理容業界では、まだ、受け入れる体制が整っていません。カウンセリングも理容師全体のレベルとして未熟です。皮膚トラブルを対象にした勉強会が他の技術講習に比べても圧倒的に少なく、情報に接する機会が無いのが原因といえます。皮膚科学や香粧品科学、毛髪ケアについて詳しい理容師も一部ではおりますが、商品を販売するにしてもメーカーからの受け売りで物を売っているだけです。そこにはお客様の健康状態や商品に対しての理解や副作用といった不可欠な情報など足りないように思います。これからの理容業界に必要なのは、今までは重要視していなかった頭皮や毛髪にトラブルを抱える方を医療業界と対等に共同でケアするネットワークの構築です。
では、医療業界と共存共栄の相手として理容師が活躍するにはどうすればいいか。
組合加盟の理容師が今までには無い時代を区切るような画期的な学習システムによる営業支援で知識を蓄えることです。どんな学習システムかと言いますと、頭皮トラブル、毛髪トラブルに関していつでも引き出せる情報があり、求めるときに手に入れて学べて、員外者が干渉できない発信の仕方で差別化を図ることです。
理容組合に加盟することで他にはない、最新の情報を得られるシステムこそ現場で働く理容師にとって最高の営業支援となります。お客様が求める疑問に対してプロとして答える。その質疑応答を全国の理容組合のネットワークで公開し共有する。一つの質疑が全員の経験となります。その経験の積み重ねこそ毛髪のプロとしてキャリアになります。欲しいと思う情報が理容組合には在る。今まで組合から発信される情報を受け取るだけだった組合員が自分から情報を取りにアクセスするような学習システムを作り活かすのです。
全体としては組合のホームページ活用による情報共有の営業支援ですが、もう一つ全国で活躍する全理連認定のヘアカウンセラーのプロフェッショナル化も必要です。なぜかというと、第一に理容組合加盟の組合員さんの中にはインターネットの環境が無い高齢の方も多いです。そういった活発に動けない高齢の組合員さんには、それぞれの県に所属するヘアカウンセラーに活躍して頂いて繋がりを濃くしていきます。第二に情報発信を中央のみに置くと、地方の組合員は理容組合に対して遠距離感を感じます。そこで所属する県におられるヘアカウンセラーの存在が一番身近な先生なのです。メールや電話では理解できない内容も会って学べる安心感は心強い存在です。これこそ組合加盟の大きなメリットにもつながります。
現在、毛髪ケアに対して消極的に考える方も大勢います。なぜかというと、サロンにおいてカウンセリングや毛髪ケアが医療行為に当たるのではないかと不安に思うのです。確かに医療行為とサロンケアを区別するには医療業界や世間の認識との調整が必要です。しかし、誰も決めきれなかったボーダーラインの設定こそが、私たち業界再生の強みに変えるチャンスだと思いませんか。世界の中でも医療と肩を並べて理容師がクリニックに取り組んでいる話は聞いたことがありません。ならば日本の理容組合が毛髪ケアのパイオニアとして最初の先駆者になれると私は確信しています。医療との共存共栄はできないのではなく、やらなかっただけです。私はこれまで皮膚科や内科の先生とお話しする機会があり医療業界と理容師のネットワークについて尋ねました。応えは「ぜひ理容師に積極的にケアに関わってほしい」という意見です。
それでは、新しい学習システムの充実により新たな毛髪ケアという営業支援ができたとして理想の地域医療ネットワークの形とは添付資料①にあるようにお客様が毛髪、素肌に悩みを抱えたら、まずは理容師に相談をします。理容師の判断によりサロンケアで改善できるものは理容サロンで対応して、専門医での診察が必要と判断すれば、最寄りの専門医を紹介する。また病院側も来院された方の診察後のケアを全理連加盟の理容サロンを紹介して頂くという相互関係を築きます。理容サロンと病院が強く結びつくことで洗髪剤、頭皮ケア用品、育毛系、スキンケアといった関連の商品も理容サロンでの購入見込みが増えます。なぜならインターネットやドラッグストアーは物を売るだけの場所です。しかし理容師は悩みを聞いて、改善するためのアドバイスや技術的なケアまで関わりますので付加価値と安心感が違います。
正直、医者と対等に皮膚トラブルに対処するのは無理だと思われるでしょうが、私が現在行っているカウンセリングでは十分に手応えを感じております。
添付資料②にあるように問診で詳しくカウンセリングします。次に、マイクロカメラによる頭皮の状態、毛根の形状の確認、視察、触診などにより添付資料③を参考に疾患を見分けます。理容サロンで十分にケアできる事も多く、添付資料④と⑤にあるように理容業の可能性を拡げられます。専門医での診察が必要であれば何科を受診するのかアドバイスします。お客様にとってどの病院に行くか迷うこともカウンセリングに含まれる悩みの一つです。
私たち理容師はお客様に近い距離で接します。皮膚に現れる異変に気が付くことも多いです。添付資料⑥にあるように皮膚トラブルは目で確認できるという利点がありますし、あくまでも治療するのではなく、異変に早く気が付き、治療が遅れないようにお客様へアドバイスを行う。他では真似できない最高の強みとなるでしょう。
【結論】
景気の悪さを世間や他人、時代のせいだと決めつけるのは簡単です。その不満を何もしてくれないと理容組合に向ける気持ちも理解できます。だからこそ理容組合が理容師に頼られる組織として、医療とのネットワークの構築に全力を注ぎ、理容組合の新しいメリットを増やします。そして理容師として毛髪ケアを強みに技を活かせる営業支援を推奨します。
地域医療ネットワークがもたらす効果は想像以上に大きな利益を理容業界に呼び込むと思いますが、残された課題は理容師全体の意識革命です。医者に負けないくらいの知識の普及とモチベーションの向上をサポートできるように今後とも理容業界の活性に尽くしたいと思います。
添付資料①
添付資料②
添付資料③
添付資料④
添付資料⑤
添付資料⑥
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