NRG 日本理容技学建設会
 
 第69回

  ペットとの“その時”

                東京本部 狐塚 均
                 naturel_12@yahoo.co.jp  
                
 今、ペットブームと言われています。最近では猫を飼う家庭が増えているようですが、猫は散歩をしないので街でよく見かけるのは、断然犬ということになります。我が家にも犬がいるため店でのお客様との会話も自然と犬の話が多くなります。というのも我が家は今では珍しく外犬で、店頭に愛犬ハウスがありますので否応なしに看板犬ということになっています。尚且つそのハウスの目立つところに「可愛がり自由です!」と書いてありますので、多くの人が通りがかりに実際に可愛がってくれています。
 看板犬は雑種でライムと言いますが、そんな関係でお客さんの方から「ライム元気?」とか、「ライムが出迎えてくれたよ」とか、「最近ライム目悪くなってない?」などお客様の方から声を掛けて来て下さいます。実はライムはもう16歳なのでお客様との犬談義もかれこれ十数年となります。するとお客様ご自身で飼っている犬のことも沢山お聞きしますので、見たことはなくてもとても親近感を覚えます。
 しかし長くお話を聞き続けていると、愛犬の寿命は必ず来ますので「うちの犬この間亡くなったんだよ」などと言われることもあります。そういう時はもう聞くだけです。こちらから話すことは余りありません。ただそんな話をしながらお客様自身最後の状態を語りたいのだなと思える時もあります。
 いまでも印象に残るのは、Yさんのお話ですが、その方も十数年前から愛犬をドックランに連れて行った話など、楽しいお話を聞きながらここまで来ました。そしてその時が来たそうです。最後は居間で家族に代わるがわる抱かれて奥様の膝の上に移った時、苦しむこともなく眠るように亡くなったとのことでした。飼い主と犬が互いに「感謝」だったり、「思い出」だったり、「さようなら」だったり、様々な想いが行きかう中での出来事だったのではないかと思います。
 またSさんも来店すると何よりも先ず犬の話から始まります。「散歩はいつも俺が行くんだよ」とか、「最近ちょっと弱って来てね」とか普段から愛犬との生活状況をよく話されていました。そしてその時が来ました。「夜、泣き方が変わったんだよね。いつもは二回続けて泣くのが、その時はワンッと一回になった。それが最後の挨拶だったんだよね。」と言って少し間がありました。その時も私はとにかく聞くことだけでした。
 他にもOさん、Tさん、別のSさん、つい最近ではライムの友達だった近所のハナちゃん(犬の名前)のママ(ハナちゃんの飼い主)、その方は愛犬の介護が大変だったそうですが「看取ったことで慰めになった」と言っていました。その言葉から全てを受け入れ、やりつくしたことが伺えました。
 これまで多くの方の愛犬の一生を聞き続けて来ました。そんな中で飼い主は愛犬の最後を、知っている人に話したがっているということを私は感じました。だからこれからも散々ペット談義をしてきた人には、その最後の状況も話されるようならしっかり聴こうと思うようになりました。
 さて我が家のライムですが、最近では寝てばかりです。目もあまりよく見えないようです。しかし散歩に行くときは急に元気になります。しかしお客さんからも「老犬になるとみんな寝てばかりになるよ」ということも聞くし、「白内障にもなるよ」と言われます。幸いにして我が家はまだ、介護が必要ということではありません。ただいつ何が起こっても不思議ではないとも言えます。今は介護の覚悟も、別れの覚悟も少しづつ自分自身に言い聞かしているところではあります。
 とは言いつつも今朝も元気に散歩に行って来たところでした。でもこれだけはライムに言いたい。「住宅街の真ん中でうんち始めるのだけはやめて欲しい!」「マジあせるワンッ。」


 1歳の頃のライム。

 がんの削除を終え退院の日。

 ペットショップでのシャンプー中!

 最近、寝てばかりのライム。16才。

 昔、看護婦さんが描いてくれたライムのイラスト。
会員メッセージ
TOP