会員発表 第16回

          理容設計学と私  

                         神奈川本部 堀 純

                       riraku-hori@qa2.so-net.ne.jp
 私が神奈川県理容組合の講師試験を受けたときの論文のテーマは「理容デザイン」でした。当時は残念なことにデザインの講師はいませんでした。そのために私の論文と講義を評価できる方がいなかったのです。そういう時代でした。
 
私が理容デザインをテーマとしたきっかけは、中央校で出会った斎藤隆一先生の理容設計学でした。設計学で、人の顔や頭、髪型を描く教科が中央校にあったことは驚きでした。私は画家になろうと思ったことがあったので、他の教科より設計学が気に入って設計図をくる日もくる日も描きました。設計図が自在に描けるようになると、描く目的がはっきりわかるようになりました。髪型をつくるにはまず設計が必要です。ところが髪型をつくるにはすぐに技術の勉強になってしまいます。いくら、技術姿勢ができて、鋏や櫛の操作がうまくなっても、つくる目的である髪型が明確にならない限り良い髪型はできません。そして良い形はそれを見る目が必要なのです。設計図を描くのは設計図がかけるようになるのが目的ではなく描く訓練により形を見る目を養うことがねらいなのです。設計図は書けるようになってからが勉強なのです。しかし描けるようになってやめてしまう人が多いようでした。中央校で設計学を習っても学校を卒業したら終わりというのではもったいないことです。
 設計学の設計図は素晴らしいものです。ここまで精密に人間の顔面、頭部を図にする方法はありません。しかし、時代の変化とともに設計図では対応できないことも出てきました。斎藤先生が設計学をつくられた目的は顔と髪型の調和でした。それを勉強するために設計図で表すことを考えたのです。その頃はフォーマルヘアという髪型が主流でしたから。パターンが決まっており、その形をそれぞれの人に調和させることが目的でした。
 
その後、ニューヘアのようにデザイン的なヘアスタイルが登場すると設計図の表現では対応できなくなってきたのです。
 設計学の作図は誰が描いても同じようにできることが重要だったのです。絵は苦手の人が多いので、デッサンのような方法で描いたら誰でも同じようには描けません。そのために寸法を決め、定規やコンパスを使って描く方法にしたのだと思います。
 この方法で描かれた図の顔は、寸法的には正確なのですが、平面図のために人間らしく見えないのです。なぜか考えました。人を見るとき、立体の顔を見ているので平面図では違和感があるのです。平面でも立体的に見えるように描かないと実物の顔のようにはみえないのです。
 そこで顔や頭部の書き方を世界各国から出されているほんを集めて調べてみました。どれも美術の本なので、設計図の描き方ほど正確なものはありませんでした。そういう本を参考にしてヘアデザイン画の描き方を作りました。設計図とは寸法的には少し違いますが、正確に、実際の顔のように立体的に表現できるようにしました。
 このデザイン画の描き方は現在、中央校で教えています。理容師ならぜひ勉強してもらいたいのですが、残念ながら他では教えるところがない状態です。
 斎藤先生が理容設計学の本を昭和9年に発行されてから78年たちました。斎藤先生がこの中で主張されている設計、現在でいうデザインの精神が十分に理解されているとは思えません。私が中央校にいるうちに理容設計学とヘアデザインを一つにまとめたものにして、理容デザイン学として確立したいと考えています。
会員発表
TOP