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根津 英和 boss@nezu.net 日技会の皆様、今日は。 京都の根津英和と言います。 私は日技会との関わりが薄いですが、斉藤技学は私のターニングポイントとなった凄く思い入れがある技術なので思いきって書かせて戴きました。 ちょっと自己紹介をしますと、私は京都市の外れで理容店の4代目として生まれました。親父は所帯を譲って貰ったのが遅く、明治時代に建ったボロ家で店も火鉢が置いてあるような古臭く貧乏な理容室でした。それでも年末は忙しくて、小学生だった私と弟で買い物に行ったり、おにぎりを作ったりという子供ながらに手伝っていた事は良い思い出です。 高校生の時は米屋さん、コンクリート屋さん、水道屋さん、造園屋さん、レストランのボーイ等、色んなアルバイトをして夜は遊び呆けていました。反抗期もあって「理容師になれ」と言われたら「絶対に嫌!」と決めていたのですが、母の口から出たのは「大学に行き」というものでした。いわば逆らう気持ちを削がれてしまい、反対に理容師になって親孝行をしようと思い、この業界に入りました。 親父が紹介してくれた店が3件ありましたが、決め手は単純に繁華街ってことだけで、あまり考えて無かったのだと思います。そこで先輩から紹介されたのが「青年部」というものでした。「毎週木曜日の夜に若者が集まり勉強会をしているから行ってみたら?」と言われて青年部に入りました。その後、建築関係の「怒鳴ってお終い」という怒られ方に慣れていた私にとって、店の奥に連れていかれて小声で叱られる事に対してや、色々と良くして戴いた先輩が辞めてしまった事もあり、この業が嫌だなぁと思うようになっていきました。 そんな中、青年部でミディアムカットのデモストがありました。見ていたのは同世代の15名ほどで、デモストをして戴いたのは私より6つくらい年上の方でした。事前に斉藤技学のプリントが配られて、落とし腰で説明しながらプリントの行程通りに鋏を動かされて、あっという間にカットが終わりました。「えっ? もう終わり?」と思いましたが、ぼかしが凄く綺麗で馴染みが良く素晴らしいデモストで本当に驚きました。 それからプリントを見ては刈り、刈っては見て、そして青年部の指導者の方に質問する繰り返しの日々でした。質問に答えて貰えない時は、違う先生や仲間、マスターに聞いていました。そこでまた驚くのですが、それは全ての行程に答えがある事でした。 双曲線・集中カット・観測カット・扇形カット・回し櫛・体の立ち位置・体躯の角度、まだまだありますが、いずれもが骨格や毛髪の馴染み等といった事が考えられ、全てが理に適っていました。そして、人間が自然に手を開く角度である12度30分の角度櫛。最近になって研究されている「ヒューマンテクノロジー(人間工学」」が理容の世界には、既に存在していた事にも感動しました。つまり、この理容業という業種の奥深さを知ったわけで、考え方が180度変わったのも、この青年部のデモストがあったからこそだということが解って戴けると思います。 私は、斉藤技学を心から凄いと思うと同時に、斉藤隆一先生という人物に非常に興味を持ちました。どうやって、この理論を思いついたのか?を考えました。最初は、きっと沢山の人を刈り、試行錯誤の繰り返しだったのかと思いました。しかし、考えれば考えるほど、インスピレーション(シックスセンス=第6感)が優れた方だったのでは?という想いが強くなっていきました。つまり「閃き」を大切にした方ではなかったのか?と。お会いしたことはありませんが、私の中の斉藤隆一先生は、潜在意識の奥底に到達できるエジソンやダ・ヴィンチと同類の天才と言われる人物だったと確信しています。 だから、私が指導する立場になった時は苦労しました。なぜなら、全てが理に適っていないといけないし、根本を説明出来ないといけないのですから。 ナショナルチームを引退して、かなりの年月が経ちますが、未だに2名のモデルさんで練習しています。それは「発見することは何にも増して快感」だからなのです。右後頭部の毛がはねる時に扇形刈りをしてみた所、見事に収まった時の喜びは今も覚えています。原理原則は不変なのです。私はこれからも斉藤隆一先生と同じように原理原則を発見し、そして成長していきたいと思っています。 最後に私が指導するときに注意している事を書いておきます。何かのお役に立てれば幸いです。 ●基本は人が考えたもの、原理原則は神様が考えたもの。 ●基本は時代によって変わるが、原理原則は変わらない ●理に適っている技術は、教えれば直ぐに出来るようになる ●短時間で出来る技術には無駄が無い=理に適っている ●剃刀は親指、ブラシ・アイロンは小指を使え ●指導者は全てを知らなければ1を教えられない ●対極を学ばないと昇華はない 最後まで読んで戴きありがとうございました。また、私がずーっと持っていた「斉藤技学への想い」というものを述べる機会を与えて戴きました日技会、そして狐塚先生に感謝しつつ筆を置きます。ありがとうございました。 |
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